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【 過去の理事長挨拶 】

思いやりのキャッチボール

 8月27日、新・寿泉堂綜合病院の開院を記念して開催した「須磨久善先生講演会」には800名もの方々のご来場をいただきました。この場をお借りして心より御礼を申し上げます。

   寿泉堂病院の新たな船出を飾るために、病院創立記念日(8月20日)前後に講演会を開催する検討に入ったのは、ちょうど1年前のことでした。院内にプロジェクトチームが結成され、様々なジャンルから講師候補者の名前が挙げられましたが、実は私自身は、当初から須磨先生をお呼びしたいと思っていました(後で知ったのですが、偶然、金澤院長も同じ考えだったそうです)。


   10年ほど前、NHKの「プロジェクトX」が、「奇跡の心臓手術に挑む ~天才外科医の秘めた決意~」と題して須磨先生のバチスタ手術への取り組みを紹介した翌年だったかと思いますが、私と当院の岩谷(循環器内科部長)で葉山ハートセンターを訪問する機会がありました。病院見学後、(当時)院長の須磨先生は、自分が医師という職業を選択した理由は「人を喜ばせ、それを見てうれしいと思える人生でありたい」というシンプルな願いを実現するためであったという話を、何の気負いもなくさらっと話されたのですが、そのとき私は、「すべての医師が須磨先生と同じ思いを有していれば、いったいそれ以上何を望む必要があるだろうか」と言葉にできないほどの感動を覚えたのです。
   同時に、先生の「スーパードクター」というイメージからはほど遠い、少しもおごり高ぶったところのない穏やかな語り口と、鋭さの奥に優しさをたたえている目にも強く惹かれました。


   私たちが訪れた葉山ハートセンターは、須磨先生が理想の病院像を求めて、モナコ胸部心臓病院を参考にゼロから作りあげた病院です。逗子の丘陵地に貼り付くように建てられた病室は全室オーシャンビューで、眼下に相模湾と晴れた日は富士山を臨む開放感溢れる病室に足を踏み入れると、それだけで病気が治ってしまうような錯覚すら覚えます。
   これに比較すると、今般私たちが作りあげた病院は、ロケーションや資金の制約もあり「理想の病院」にはまだほど遠いものであると言わざるを得ません。それでも、自然光のふんだんに注ぎ込む病室やステンドグラスを配置した待合など、須磨先生の言う「病院は患者さんにとっても医療者にとっても神聖な舞台である」ことを意識しながら作ったつもりです。


   講演会終了後、ご来場いただいた方々からは、「期待して来たけれど、その期待をさらに上回るすばらしい内容だった」とか、「自分も十分に感動したが、なぜ息子を連れてこなかったかが悔やまれる」といった感想を頂戴しました。後の感想は、ずいぶん前に「キレる」子どもと少年による残虐な犯罪が社会問題化したとき、須磨先生はその原因が大人にあると考え、子どもたちに大人がカッコいい姿を見せることが必要で、しかも本物を見せることが重要であるという信念から、自分の病院を開放し手術を見学させることを開始し今も継続して行っていること、そしてそのことが実を結び、既に多くの子どもたちが医療の道を踏み出していることに触れた発言です。
   何より嬉しかったのは、講演会の翌日、数名の職員から私のパソコンに「須磨先生のお話は、最終的に『患者さん第一』という当法人の理念と結びつくことがわかり、あらためて当法人の職員であることに誇りを感じることができました」というメールが届いたことです。正に理事長冥利に尽きます(涙)
  
   須磨先生にご講演を快諾いただいたのは昨年暮れのことでしたから、まさか東日本大震災からの復興と原発事故の収束も見えてこないこのような状況の中で先生を福島にお迎えすることになろうとは、想像すらできませんでした。しかし、だからこそ今回の講演内容は、私のみならずご来場いただいた多くの皆さまに、よりいっそう大きな感動と勇気を与えてくれたのではないかとも思っています。

 

   タイトルにある「医療は思いやりのキャッチボールである」は、須磨先生が講演を締めくくるのに話された言葉です。先生は、「医者(医療人)は患者さんの気持ちに思いを至らせ、患者さんは医者の気持ちに思いを至らせる・・・そうしてはじめて、患者さんと医者は幸せを共にできる」というお話をされました。いま私は、これこそ「患者さん第一」ということの神髄であるように感じています。

(2011.9. 3 記)

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