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ごあいさつ

理事長のご挨拶

【 過去の理事長挨拶 】

春愁(しゅんしゅう)の中で

 

 暖冬だったためか、今年は例年になく早く各地から桜のたよりが届いています。NHKでは福島市出身の作曲家・古関裕而夫妻をモデルとした朝ドラ、「エール」が始まりましたが、その福島市でも3月28日、観測史上最も早い開花宣言が出されました。

 でも今年は、春爛漫を目前にしてもまったく気持ちが浮き立ってきません。私は毎年、年度が替わるこのタイミングに地域の皆さまへ向けたご挨拶の文章を更新し、少しだけ新年度へ向けた決意なども記してきましたが、日に日に情勢が深刻化していく中では、何を書いても空しく響くように感じます。

 昨日(3月31日)福島県は、県内で新たに2名が新型コロナウイルスに感染したことを発表し、感染者は累計4名となりました。他県に比べれば少ない状況ですが、新たに感染した2名はこれまでと異なり感染経路が不明で「市中感染」したものと考えられるため、フェーズが変わりつつあります。全国で増え続ける感染者と死者の数を伝えるニュースを見ていると、「見えない敵」がじわじわと私たちの生活を脅かしている状況に、原因や性質がまったく異なると分かってはいても、つい9年前の原発事故発生後に感じた気味の悪さを思い出します。

 今さら言うまでもないことですが、毎日「感染者」として発表されている数字のほとんどは、発熱などの症状がありPCR検査によって新型ウイルスの感染が確認された「患者」の数です(他に、検疫や感染者との濃厚接触により検査を行い陽性となった数が含まれています)。国内の現状を見るかぎり、市中にはその何倍もの無症状の病原体保有者が存在すると考えるのが自然であり、それは私自身かもしれませんし、体調に何も不安を感じていないあなたかもしれません。

 原発事故の発生後、放射線の被ばくによって健康を損なうリスクを避けるためには「正しく怖がる」ことが重要であるとされましたが、このことは未知の部分が多い新興感染症についても当てはまります。誰もが新型コロナウイルスを保有している可能性のあることを前提に手指衛生を徹底すること、咳エチケットを守ること、これまで得られた知見から高リスクとされた3つの「密」(密閉、密集、密接)を避けること。これらを掛け声でだけでなく本気で実行できるか否かが、大げさでなく、わが国の未来を左右することを、私たち医療従事者は先頭に立って伝えていかなくてはならないと思っています。

 間違ってはならないのは、怖がるべき対象、憎むべき対象はあくまでも病いであり、ウイルスであることです。先に新型ウイルスの感染者が出てしまった郡山市の大学では関係者への嫌がらせや不当な扱いが多数あり、附属高校の生徒に対してまで「コロナ、コロナ」と指を差すなどのハラスメントが相次いたそうです。また、不幸にも集団感染・院内感染が発生してしまった各地の病院や施設の関係者に対しても、言われなき誹謗中傷やタクシーへの乗車拒否など差別的な扱いが生じているそうです。

 病気に罹りたくて罹る人なんて誰もいませんし、院内感染を起こそうと思って起こす病院もどこにもありません。発症してしまった患者さんは今も懸命にウイルスと戦っています。集団感染が発生した病院は、外来を閉鎖し、マスクや消毒用アルコールが足りない中、ウイルスを封じ込め、患者さんを助けようと死に物狂いでもがいています。感染した人や病院をいくら叩いても、何も状況は変わりません。「怖がる」ことと「忌み嫌う」ことは、まったく異なることですし、「明日は我が身」となるかもしれないことを忘れてはならないと思います。

 例年に比べて大幅に簡素化した本日の入社式で、私は、総勢55人の事務職員やコ・メディカル、さらには、恐れ多くも医師たちを目の前にして、そんな素人っぽい話をしたところです。

(2020.4. 1 記)

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