ごあいさつ
理事長のご挨拶
【 過去の理事長挨拶 】
不安な日々の中で
昨年春、このあいさつ文を更新したとき私は、2月13日23時7分に発生した福島県沖地震で、10年前の東日本大震災の記憶がよみがえったことを書きました。それから1年あまりが経った本年3月16日23時36分、またしても福島県沖を震源とする最大震度6強の地震が発生したときは、誰もが「またか!」と叫んだことでしょう。
大きな津波が発生しなかったことは不幸中の幸いでしたが、個人的に今年の揺れは、東日本大震災の時よりも大きいように感じました。この地震でお亡くなりになった方に哀悼の誠を捧げるとともに、けがをされた方、自宅の損壊などにより不自由な生活を強いられている方々に心よりお見舞いを申し上げます。
昨年のあいさつにはまた、ようやくワクチンの接種が始まったことを受けて、「世界が新型コロナウイルスとの闘いに必ずや勝利し、穏やかな日々を取り戻すまでもう一踏ん張りであることを信じます」とも記載しました。しかしその後、7月から8月にかけてデルタ株による「第5波」が猛威を振るい医療の機能不全をもたらし、2022年が明けるとオミクロン株による感染が瞬く間に拡大し、2月中旬には1日あたり新規感染者数が全国で10万人を突破するという、過去最大の「第6波」が発生しました。本稿執筆現在、感染の中心はオミクロン株の亜種BA.2へと置き換わり感染者数が「高止まり」から「再拡大」へと転じつつあり、「勝利」はおろか、闘いのさらなる長期化が必至の情勢です。
そして、2022年2月に開始されたロシア軍によるウクライナ侵攻。・・・国際社会が、どのような理由を並べたとしても許されるはずのない武力による蹂躙を未だ停めることができない現実に、ただ打ちのめされるばかりです。
頻発する自然災害、新興感染症のパンデミック、生物兵器・核兵器使用のリスクをはらみながら長期化する戦争、愚かしい示威行動を繰り返す隣国等々に日々、不安ばかりが増長し、脳裏には「世紀末」、「末法末世」などといった言葉すら浮かんできます。
そのような中、3月27日に千秋楽を迎えた大相撲春場所で、福島市出身の若隆景が高安との優勝決定戦を見事に制し、新関脇として86年ぶりの優勝を果たしたことには、福島県民のみならず多くの国民が勇気づけられたに違いありません。・・・こんなとき「相撲なんか」に元気づけられるとはあまりにも脳天気とお叱りを受けるかもしれませんが、震災と原発事故による暗雲が日本全土を覆っていた2011年、ワールドカップで「なでしこジャパン」が優勝したときもそうだったように、深刻な不安や危機が迫ってくると、ヒーローの出現や明るい出来事に希望を見出し、自らの運命を重ねようとするのが人間の本能なのかもしれません。
一昨日私に届いたある患者さんからの手紙には、検診で自分にがんの可能性があると判ったときの不安と絶望、検査結果と治療方針について医師から詳しい説明を受けたときに感じた希望、内視鏡で治療と生検を行い不安が消失したときの安堵、スタッフへの感謝などがていねいに綴られていました。医療ドラマに出てくるスーパードクターのような分かりやすいヒーローにはなれないとしても、すべての疾患が「治癒」という転帰に至るわけではないとしても、当法人の職員は常に患者さんの不安に寄り添い、希望の光を注ぐ存在でありたい。私たちも漠然とした不安を感じる日々を過ごしながら、そのように願っています。
(2022.4. 1 記)
【 理事長挨拶アーカイブ 】
- 桜花爛漫の侯に (2023.3.31)
- 不安な日々の中で (2022.4. 1)
- 地域医療を守るための総力戦 (2021.3.11)
- 春愁(しゅんしゅう)の中で (2020.4. 1)
- 理念を見直しました (2019.4. 1)
- ちょっとだけ、大河ドラマふう (2018.4. 2)
- 創立130周年を迎え、私たちがすべきこと (2017.4. 4)
- 鎮魂と再生と (2016.3.11)
- 「人」から始まる復興 (2015.3.11)
- 福島の復興のために私たちができること・すべきこと (2014.3.13)
- みたび迎えた3.11に (2013.3.11)
- ふたたび3.11を迎えて (2012.3.12)
- 思いやりのキャッチボール (2011.9. 3)
- 地域の復興のために (2011.4. 7)
- 「報恩」ということについて (2010.6.15)
- 病院とホスピタリティ (2010.2.15)