ごあいさつ
理事長のご挨拶
新世代の仲間を迎えて
新年度が始まり、慣れないスーツに身を包んだ新入社員の姿をあちこちで見かけます。当法人でも4月1日、寿泉堂綜合病院の大会議室で入社式を開催し、63名の職員を「チーム寿泉堂」の仲間に迎えることができました。そして翌2日には、郡山商工会議所のホールで「採用後オリエンテーション」を開催しました。あいにく両日とも雪やみぞれの降る、4月とは思えない寒い日でしたが、コロナ禍中には実施できなかった「リアル」なグループワークで、同期の職員が膝をつき合わせて議論したり笑い合ったりするうちに自然と温かい連帯感が生まれてくることを感じ、しみじみうれしくなりました。
これに先立つ3月12日、日本病院会、全日本病院協会等の6病院団体と日本医師会は合同で記者会見を開き、「医療機関の経営状況は著しくひっ迫しており、賃金上昇と物価高騰、日進月歩する医療の技術革新に対応できていない」ことを指摘、「このままでは、人手不足に拍車がかかり、患者さんに適切な医療を提供できなくなるばかりか、ある日突然、病院が地域からなくなってしまう」危機にあると訴えました。
6病院団体が実施した「2024年度診療報酬改定後の病院の経営状況緊急調査」(有効回答1,731施設)によると、2024年6月~11月期の医業利益が赤字となった病院の割合は69.0%で、前年同期の61.2%を7.8ポイント上回りました。医業利益率の平均はマイナス6.0%で、前年のマイナス5.2%より0.8ポイント悪化。病床数100床当たりの平均赤字額は66,321千円であるため、300床の病院であれば年間の赤字額は4億円を超える計算で、プラス改定であったはずの診療報酬改定により、病院がますます追い詰められている実態が明らかとなりました。残念ながら、当法人もその例外ではありません。
当法人が「採用後オリエンテーション」で行ったグループワークのテーマは、「自分たちがつくる理想の病院」でした。8つのグループが作成・発表した「理想の病院」には、「患者さんがかかってよかった、あってよかったと思える病院」、「スタッフが患者さんに寄り添い、その痛みを理解し、心身共に患者さんを癒せる病院」、「訪問診療や訪問リハビリなど、積極的に地域に出ていく病院」、「医療の質が高く、安全な病院」など、当法人の理念につらなる内容があり、心強く感じました。
一方、それ以上に多かったのが、病院が置かれている厳しい現状を知ってか知らずか、「給料は○○万円以上、ボーナスは○○円以上の病院」、「完全週休2日制、残業ゼロの病院」、「職員用温泉、マッサージ機、ジム、スタバ完備の病院」、「先輩が優しくて、お局がいない病院」など、正直で遠慮のない内容でした。
昭和生まれのオヤジとしては、思わず「人はパンのみにて生くるにあらず」、「国が諸君に何をしてくれるかを問うな。諸君が国に対して何をできるかを問え」などと言いたくもなってしまいます。でも、悪びれることなく本音をぶつけてくるこの新人たちが、この先、パンすら十分に得られず夢の一つも持てなくなってしまうことのないよう、医療行政や経済情勢に責任を転嫁せず、目の前の経営改善策に全力で取り組むことが、私たち病院管理者、幹部職員の最低限の責任であると強く思いました。
案外、Z世代の仲間たちは、四苦八苦している先輩とはまったく異なるデジタルネイティブならではの発想や手段で、厳しい経営環境をいとも簡単に乗り越えてしまうのかもしれません。彼らのポテンシャルを信じるとともに、これから「理想の病院」をつくりあげていくのは先輩たちではなく彼ら自身であることをしっかり伝えていかなくては、と思います。
(2025.4. 3 記)
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理事長就任挨拶
6月10日に急逝いたしました故・湯浅伸郎に代わりまして、この度、7月28日付で、財団法人湯浅報恩会の理事長に就任いたしました湯浅大郎です。私自身は医師ではありませんが、当法人に勤務して23年目に入りました。その大半は病院の経営管理にたずさわってまいりましたが、まだまだ知識、経験、人間性のいずれにおいても到らない点が多々あることは、本人が一番自覚しています。しかし、今回、図らずも理事長という重責を担うこととなった以上は、すべての職員と力をあわせ、地域医療の充実のために全力を尽くす覚悟です。以下では、今、私が考えている主な基本方針を説明して、ご挨拶に代えさせていただきます。今後とも当法人に、皆様からのお力添えと忌憚のないご意見を賜りますよう、心よりお願い申し上げます。
1.理念の堅持
明治20年、初代・湯浅為之進(ためのしん)が郡山駅前に小さな医院を開設したときから掲げてきた「患者さん第一」の理念は、私たち湯浅報恩会の職員にとって、すべての価値判断や行動の根幹をなす拠り所です。前理事長が折りに触れて話していた、「『患者さんの喜びは私たちの喜び』という精神こそ、医療人の原点である」という言葉も、同じことを言い表したものでしょうし、私自身は、「患者さん第一」とは、簡単に言えば患者さんを自分の肉親であると思って接することである、と考えています。 今でこそ、似たような基本理念をうたう医療機関は少なくありませんが、私たちには、一世紀以上にわたってこの理念にこだわり続けてきたという、秘めたプライドがあります。人口動態や疾病構造の変容を受けてわが国の社会保障政策が目まぐるしく変転する中、医療機関には時代の要請に的確に対応していく柔軟性が求められています。しかし「患者さん第一」という理念は、時代がどんなに変わろうとも決して変わることはないでしょうし、変えてはいけないものであると確信しています。
2.前理事長の遺志の継承
現在、寿泉堂綜合病院西側の区画では、郡山駅前の再開発計画と連動する形で新・寿泉堂綜合病院の建設工事が進められています。前理事長の悲願でもあった新病院建設計画は、当法人にとって「第二の創業」とも位置付けられる重要な事業であり、新病院の運営をしっかりと軌道に乗せていくことこそ、私に託された最大の使命であると考えています。新病院では、従来の診療科の枠組みを超えた「血管病センター」をはじめ、3つのセンターを核とする高度な急性期医療の提供体制を整える計画ですが、それだけに止まらず、病院の上層階に約80戸のマンションが併設されるという特徴を活かし、高齢者世帯などが「安心して暮らせるまちづくり」のひとつのモデルを呈示していきたいとも考えています。そのためにも、前理事長が最も力を注いできたマンパワーの充実、とりわけ医師の増員には、引き続き全力で取り組みます。マンパワー充実は綜合病院だけでなく、寿泉堂香久山病院の回復期・慢性期医療、寿泉堂クリニックの予防医学と透析医療、さらには在宅医療、介護・福祉領域まで、当法人が有する包括的医療提供体制全体のレベルアップと、他医療機関との連携・役割分担の推進を視野に入れながら進めてまいります。
3.企業体としての存続と地域貢献
湯浅報恩会には現在、パート、派遣職員も含めると約880人の職員が勤務しています。これに関連法人を加えた職員数は優に1.000人を超えますから、職員の家族まで含めるとおそらく3.000人以上の方々が、生計の基盤を当法人に置いていると考えられます。私には、地場の企業体としては決して小さくないこの法人を将来にわたり存続させ、職員の雇用を安定的に確保する義務も課せられています。言うまでもないことですが、「患者さん第一」を実践し、患者さんの満足度を高めるためには、職員自身もまた、高い満足度を持って仕事に従事していることが必要です。職員に心のゆとりがなくては、患者さんに笑顔で接することができるはずはありません。私は、職員の一人ひとりがプロフェッショナルであるというプライドを持ち、それぞれの役割をきっちりと果たすことによって私たちの使命を果たしていけるような組織風土づくりにも力を入れていくつもりです。そのために、これも前理事長が手がけようとしていたことですが、職場・職種・職制間のコミュニケーションの円滑化、現場への責任と権限の委譲、経営陣の世代交代も含めた組織刷新に、順次着手していく所存です。また、厳しい経済情勢の中ではありますが、初代以来、当法人が力を注いできた文化・芸術活動への支援などを通じても、地域の発展に貢献していくことができれば幸いです。
(2009.8. 1記)
【 理事長挨拶アーカイブ 】
- 桜花爛漫の侯に (2023.3.31)
- 不安な日々の中で (2022.4. 1)
- 地域医療を守るための総力戦 (2021.3.11)
- 春愁(しゅんしゅう)の中で (2020.4. 1)
- 理念を見直しました (2019.4. 1)
- ちょっとだけ、大河ドラマふう (2018.4. 2)
- 創立130周年を迎え、私たちがすべきこと (2017.4. 4)
- 鎮魂と再生と (2016.3.11)
- 「人」から始まる復興 (2015.3.11)
- 福島の復興のために私たちができること・すべきこと (2014.3.13)
- みたび迎えた3.11に (2013.3.11)
- ふたたび3.11を迎えて (2012.3.12)
- 思いやりのキャッチボール (2011.9. 3)
- 地域の復興のために (2011.4. 7)
- 「報恩」ということについて (2010.6.15)
- 病院とホスピタリティ (2010.2.15)